連載「僕の知事選、奮闘記」 〜敗軍の将、兵を語る〜

連載No18.  国際メガ・スポーツ大会開催の意味 その2 2013/08/10

アメリカがサッカーのWカップを開催する意味の第二は、20世紀の交通インフラに変る「情報交通インフラ」の整備だった。当時のクリントン政権のゴア副大統領は、「情報ハイウェー構想」を唱えていた。「不都合な真実」という映画の公開以来、環境問題の先駆者としてスッカリおなじみになったゴア氏だが、実は父親は上院議員でアメリカのハイウェーの整備を押し進めた政治家だった。息子の方が、「情報ハイウェー」を唱えた背景にはそういう事情もあった。

「情報ハイウェー」とは、全米をインターネットで結び、情報の「分散並列処理」を進めるという国家戦略だった。80年代になって、工業製品の分野で日本に負け続け、「世界の工場」であることに見切りをつけたアメリカは、次に自分たちが優位になる有望な分野を模索していた。資本主義のリーダーとして、資本の投資効率の良い「新たなフロンティア」が求められていた。89年にベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦構造も終焉。それに伴って、地球上の物理的な空間から経済のフロンティアが消滅してしまっていた。新たなフロンティアは、物理的ではない未開の地に求めたのだ。第一に、「インターネット」というバーチャルな世界を開発して、開拓した。バーチャルな世界であれば、「未開拓地」は無限にある。いや、作れる。

第二が、金融だった。90年代になって、「金融工学」が異常とも言える発達を遂げる。それは、冷戦構造が終焉したことと無関係ではない。ソ連という仮想敵国が消滅したために、軍事予算が削減された。当然だ。軍事的な研究開発費も削減された。これも当然だ。原子爆弾の開発において、天才数学者フォン・ノイマンや物理学者のオッペンハイマー達が核融合の計算のために多く起用された。ノイマンの考案した「多列多項式」は、核融合にいたるまでの連続する化学反応を計算し、コントロールするためには実に有効だった。計算のための機械を開発すべきだとして、フォン・ノイマンは「電子計算機」を考案する。これは原爆の開発には間に合わなかったが、その後作られたエニックスというコンピュータは、水素爆弾の開発では実際に大活躍をした。それがIBMという会社の誕生にも結びついている。(ちなみに、戦後、大学の戻ったノイマンが研究して開発した電子計算機で最初に計算したのが、地球上の天候変化だった。その後この計算式を使って「CO2の増加と海面の音頭変化」の関係を日本人の研究員が証明した。この論文が後に「CO2削減問題」につながっている。)

インターネットは、もともとテロ攻撃に対応するための情報のセキュリティーとして軍によって開発された「アーパ・ネット」がスタートだ。このようにアメリカでは軍事的な研究から多くのテクノロジーが開発され、後に民間に開放されている。90年代になり、軍事研究予算が削られたために食えなくなった数学者が職を求めたのが、同じくマンハッタンにある「ウオール街」だった。(原爆の開発が「マンハッタン計画」と呼ばれたのは、ニューヨークのマンハッタン島にあるコロンビア大学の構内で、数学的な研究が進められたからだ。)90年代にウオール街で発達した「デリバティブ」などの新しい金融商品は、「リスク」を数学的に計算した「金融工学」の発達なしには起こらなかった。これが21世紀になって「サブ・プライム・ローン」問題を引き起こし、「リーマン・ショック」につながっていった。

ゴア副大統領(当時)の情報ハイウェー構想は、1994年のWカップと、1996年のアトランタ五輪の開催で大いに進んだのだ。メガ・スポーツ・イベントの開催には、国の支援が必要となっている。逆に、国はその支援を通じて、国家戦略を具体的に進める事が可能なのだ。(逆に、世界規模の戦争が無くなった21世紀の今日では、20世紀に戦争が担っていた「基礎的なテクノロジーの開発」を、メガスポーツ国際大会の開催が担っていると考えることも可能だろう。)

ちなみに、格付けで有名なブルムバーグ者の創立者ブルムバーグ氏がNY市長になった直後、2012年の五輪招致に手を挙げた。結果としてロンドンに負けたのだが、NYは詳細な開催計画書を作成しIOCに提出した。現在では開催準備の中に「環境アセスメント」は必須項目になっている。NYはそれまで何十年も怠ってきた「環境アセスメント」を行った。「下水道」「交通インフラ」「エネルギー供給」「大気や水質」などの諸項目のチェックを行った。そして、その結果、都市の基盤に多くの問題があることが判明し、総合的な都市計画が策定されることになった。第一に「人口増加」に耐えきれないことが明らかになった。住宅、水道、公園などが当時の人口800万人にしか対応でないが、2030年には900万人台に突入すると予測されている。更に深刻だったのは、都市基盤の老朽化だ。水道なだおは1920年代に整備されたものの多くがそのまま残って使用され続けていた。このままでは2030年代にNYの水道のほとんどが100歳を越えることになる(!)これらに対応するために、ブルムバーグ市長は「プランYC(PlaNYC)」を策定し実行している。

この話は東京五輪の招致を想起させるだろう。世界大戦のために、東京の都市インフラは1945年以降に一新されたと考えたとしても、既に半世紀は経過している。いや、恐らく日本中の都市インフラも事情は同様だろう。静岡もその例外ではない。私たちの祖国は、都市の基盤インフラを総点検し、修繕あるいは再構築する必要がある。ここから目をそらす訳にはいかない。五輪やWカップの招致には、こんなきっかけを与えると行った側面もあるのだ。

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日時: 2013.08.10|